少年の心をもった大人

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初めてできたネットの友達がすごい人だった話

こんにちは。てんすけです。

 

今回は、2000年代なかばのチャットルームから始まった嘘のような本当の話を書きます。

 

細かい会話は記憶たどって書いたので、違う部分ありです。

あと本人特定できないように仮名です。

 

 

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中学2年生の頃、初めてパソコンを買ってもらった。

2000年代半ば。個人ホームページが乱立し、BBSお絵かき掲示板、そしてチャットが全盛だった時代。

 

本名なんて当然名乗らない。誰もがHN(ハンドルネーム)をもって別人のようにネット上での交流を楽しんでいた。

 

私は吾郎と名乗って、とあるサイトのチャットルームに入り浸っていた。

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そこで色々な人に出会った。

 

・近所の学校に通っている男子中学生

・東京の学校に通っている男子高校生

・社会人のお兄さん、お姉さん

・ひきこもりと名乗る人

・素性が全くわからない人

 

本当に色々な人がいた。その中で出会った一人。

りんご」というHNの男子中学生の話をする。

 

その子は大体私と同じ時間、部活も終わって帰宅した後の19時ごろによくログインしていた。その時間はチャットルームのピークタイムだったので、1対1で話すことは少なかったが同年代ということもあり私はすぐにりんごと仲良くなった。

 

吾郎(私):部活なにやってんの?>りんご

 

りんご:部活<吹奏楽だよ〜。結構厳しい。

 

吾郎:吹奏楽ってきついのか。

 

りんご:野球部だっけ?練習こっちと比べ物にならないくらいでしょ。>吾郎

 

吾郎:まあな。でも、まあ楽しいよ。

吾郎:あー!!彼女欲しい!!!

 

りんご:なんだよ笑 唐突に!<彼女欲しい

りんご:がんばれよ笑

 

こんなくらいの他愛無い会話を毎日していた。

会話をする中でわかったりんごの人物像は次のような感じ

 

・千葉県に住むごく普通の中学男子

・部活は吹奏楽でサックスやってる

・ディズニー詳しい。マニアと自称していた。

椎名林檎とゲームが好き

・クールキャラだけど友達は多そう

 

 

りんごや他のチャット常連と仲良くなる中で、私は個人ホームページを作った。

ホームページの管理人というのに憧れただけの、簡単なやつだ。

 

りんごもホームページを作った。日記とディズニー吹奏楽の音源がメインコンテンツの簡単なもの。

 

当然、我々は相互リンクした。他のチャット友達のページもリンクしたので毎日それらのページを巡回するのが日課になった。

ほとんどは日記の更新だった。もちろんりんごのHPも見に行っていた。

 

5月10日

部活だった。

〇〇のパートのやつが休んでた。多分ズル休みだ。

彼氏できたって言ってたからな〜。

 

 

5月13日

席替えで仲良い人と隣になった。

ただ担任はクソのままだ。

 

 

こんな感じの内容をりんごは2日置きくらいに書いていた。

すると、ある日の日記がいつもと違うことに気がついた。

 

6月28日

修学旅行の班ぎめ終わった。

終わった。

行きたくない。

 

チャットルームでの、私のボケにクールに突っ込む時の感じからは想像つかない暗い内容の日記だった。本人に聞くことはしなかったが日記は毎日チェックするようにしていた。

 

6月30日

てかさ、コミケ行きたいって言っただけでなんなん?

人の勝手じゃん。

コミケがオタクの集まりとか。

そんなことであいつら避けてくるとか。

こっちからからみたくもないわ。

 

 

7月3日

修学旅行やだな。一人でまわるの確定じゃん。

行きたくないからずっとラグナロクやってたい。

 

 

ちょっと様子がおかしいどころじゃないなと思い始めたころ、チャットルームにりんごは来なくなった。ゲームにハマっているからかなと思っていたが、日記の更新は依然として続く。いや、以前よりも頻度は上がっていた。

 

7月4日

また、シカトか。

部活くらいでは喋れよ。

 

 

7月5日

もしかしたらここ見てんのかな?

 

 

7月6日

もう見てる友達とかいるかもだけど、正直に言います。

 

私はね、まあさ、いじめられてるわけですよ。

 

パソコン詳しくて、よくわかんないゲームやってて、コミケ行きたいやつはキモいんだって。

近寄りたくないんだって。

わけわかんないわ。カスが。

 

 

2000年代なかば当時は、オタクは世間に認められた存在ではなかった

コミケに行きたいなどと中学生が言った日には、クラスで異質な存在になる。もちろん個人ホームページ持ってるとか、ネットゲームやってるなんて知られた日には、危ないやつというレッテルまで張られる時代だった。

 

この衝撃的な内容に、私は何も言えなかった。

私も当時はネトゲにハマりだした時期。クラスでこういうチャットだとか大きな声で言えない立場だった。

 

ただ、恥ずかしながら当時はコミケに偏見をもっていた側だったのでりんごのこの主張には素直にうなずくことはできなかった。

 

それからしばらくまた他愛の無い内容の日記が続いた後、りんごのページは閉鎖された。

私は、その頃はチャットルームよりネトゲに入り浸ることが多かったので自然とりんごと会うこともなくなっていった。

 

時は流れて、大学生になった時。

 

私が大学生の時はmixi全盛期。

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大学の同級生に招待されて、すぐにmixiを始めた。

mixiはチャットルームや掲示板文化で育った私にとって、衝撃的な世界だった。

 

・みんな本名

・人のページを閲覧しただけで履歴が残る。(あしあと機能)

mixi内でさらにコミュニティがある

・コミュニティを自己紹介代わりに登録する

 

 

私も同級生にならって本名でmixiを登録。珍しいからか色んなコミュニティを検索して登録した。

すると、あるコミュニティが目に入った。

 

「チャットルーム同窓会」

 

私が入り浸っていたチャットルームの当時のメンバーが、コミュニティを作っていたのだった。懐かしくなって私は当然すぐに登録。書き込みも見た。

 

〇〇:みなさん、当時のHNと今何してるか書き込んでください。

 

色んな人が書き込んでいた。私も書き込んだ。

 

HN:吾郎

今は東京の大学で1年生です。ドラクエの話とかしてました!またみんなで話したいですね。マイミクなってくれる人はお願いします。

 

私の書き込みがあった数日後

 

HN:りんご

地元の大学1年。夢の国でバイトしてます。

チャット楽しかったな。マイミクお願いします。

 

りんごが書き込んでいた。まさかmixiをやっているとは思わなかったので驚いた。そして嬉しかった。

 

しかし、あることに気がついた。

 

りんごの書き込みをしたユーザー名は「るり

プロフィールページの性別欄も「女性」となっていた。

 

これには本当に驚いた。私は彼女のことを本気で男子中学生だと思いこんでいたからだ。

とりあえず、同い年で仲良かったこともあり、連絡を取りたいと思った。即座にマイミク申請をした。

 

るり(りんご):吾郎じゃん!久しぶり!元気だった?

 

吾郎:りんごー!久しぶり!元気元気!てか、るりって。びっくりしたわ(笑)

 

るり:言ってなかったか?ごめんごめん。まあまたmixiで絡みましょうや。

 

吾郎:聞いてないわ(笑)久しぶりで嬉しいわ。mixiの日記読んでくれよ。あと、夢の国でバイトしてんのね。今度行くことになったら言うよ。

 

るり:おー!それは嬉しい。海の方でやってるから来る時言ってよ。デートなら来るな(笑)

 

※海=ディズニーシーのこと

 

とにかく嬉しかった。昔の友達に再会した喜びだ。

しかし、大学1年生。浮かれポンチの時期。リアルの人間関係が楽しすぎて1ヶ月もしたら、るり(りんご)のことは忘れ去っていた。

 

もちろん、中学の頃のあの日記のことも聞かないまま。

 

1年経った大学2年の夏。ずっと好きだったディズニーリゾートに、東京の大学に進学したのを良いことに行きまくっていた。

大学の友だちとランドに行くことが多かったので、シーでバイトしているというるりのことは忘れていた。

 

ある日、友達の提案でディズニーシーに行くことになった。その友達はmixi中毒なこともあり、予定を立てたことも丁寧に日記にしていた。

 

その友達の日記を見ようとmixiを開いた瞬間、マイミク一覧の9つの欄にるりが出てきた。それで思い出した。

シーに行くから一言メッセージしようと。

 

吾郎:○日にシー行くよ!バイト入ってる?

 

るり:お!よくそんな混む日に行くね(笑)入ってるよ〜。

 

吾郎:しゃあないだろ(笑)マジか!じゃあ顔出すよ。これ本名でいいの?

 

るり:本名本名。キャストのプレートは名字だから◆◆で探して。いなかったら諦めてな。

 

吾郎:おっけ!じゃあよろしくな!

 

ネットで知り合った人とリアルで会うことは初めてだ。わくわくが止まらない。顔も知らずに仲良くなった人だ。どんな人なんだろうと楽しみにその日を待った。

 

当日。

 

大学の友達と初めてのディズニーシーを堪能していたこともあり、るりが働いている店に行くのは夜の閉園間際になっていた。

ドキドキする中、店を覗いた。レジにいるキャストの名札を見た。◆◆ではなかった。

 

同行していた友達が残念がる私を見てニヤニヤしながら言う。

 

友「俺が店中探してきてやるよ(笑)」

 

1分くらいして友達がニヤニヤしながら戻ってきた。

 

友「◆◆さんあそこ。」

 

友達が指差した先には、レジに補充しようとしているキャストさんがいた。

私はレジの方に向かう。やっと会える。

 

私「るりさんですよね?吾郎です。」

 

るり「あ、え?本当に?」

 

劇的な再会でも何でもなかった。でも、私はネットでの知り合いがリアルに進出したこと自体が嬉しかった。

 

私「仕事中ごめんね。よかった!会えた!」

 

るり「びっくりした。閉園までいるの?」

 

私「いるよ。ちょっとどっかで話す?」

 

るり「いいよ。じゃあ、ボンボヤージュのあたりで待ち合わせで。」

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変な感覚だった。男子校ノリで絡んでいたチャット友達とリアルで話す。しかも異性なのだ。でも、楽しみだった。

 

友達は終始ニヤニヤしていた。

 

閉園後、ボンボヤージュの前で待っていた。ニヤニヤしてやがった友達は残りたそうにしていたが、別の友達が強制連行してくれた。

 

るりがやってきた。

 

そして、この後中学の頃のあの日記の真相を聞くことになる。

 

るり「いや、ほんと久しぶり。うん?久しぶりって変かな。」

 

私「そうね(笑)会ったことあるわけじゃないもんね。」

 

るり「チャットしてたのって中2だから5年前くらい?懐かしいね。」

 

私「mixiで繋がれてよかったよ。チャット何気に生きがいだったし。」

 

るり「私も私も。当時友達いなかったし。」

 

あ、あのことか。私は思い出した。あの日記の内容を。

 

7月6日

もう見てる友達とかいるかもだけど、正直に言います。

 

私はね、まあさ、いじめられてるわけですよ。

 

私「俺もネトゲやりまくってて友達いなかったよ(笑)」

 

笑い話にして流そうと思ったが、るりはその話を自ら広げた。

 

るり「私、ちょうどHP閉鎖してチャット行かなくなったくらいから学校行ってないんだ。」

 

私「そうだったんだ。でも、今は大学行ってんだよね。ディズニーのキャストにもなって。すげえな。」

 

るり「うん。学校行かなかったけど、ディズニーのことは好きで千葉に生まれたしここで働きたいなってだけ思ってた。で、まあ大学には入れたから今バイトしてんの。」

 

私「俺もやってみたい!」

 

るり「やったらいいじゃん(笑)」

 

私「いや、家から遠いからなあ〜」

 

るり「吾郎?って呼んで良いのかな(笑)吾郎はなんかチャットのイメージどおりだわ。友達もいっぱいいたじゃん。いいね。」

 

私「すっげえ冷やかしてたけどな。いい友達だよ。みんな。」

 

るり「いいな。私友達いないから。」

 

私「そ、そうなのか。」

 

るり「オタクオタクって言われてたから、仲良くできる人いない。」

 

るりがあの日記を書いた時、どんな気持ちだったか5年ほどの時を経てようやくわかった気がした。

 

好きなものを突き詰めることバカにされる風潮。それに苦しんでいたのだ。推測だが、もともと仲の良かった友達も「コミケ」だとか「ホームページ」だとかそういう言葉だけで離れていってしまったのではないか。

 

ただのディズニーに詳しい人ならそうではなかったのではないか。

 

それから私は黙ってるりの話を聞くだけで何も言えなかった。とりあえずくだらない話(さっきの友達のこととか)して話を紛らわすくらいだった。

 

るり「吾郎。今日はありがとう。久しぶりに話せて楽しかったよ。」

 

私「おう!またシー行く時言うわ!」

 

その日はこれで別れた。

 

その後、るりが私の思っていた以上にすごい人生を歩んでいたと知ったのは大学卒業寸前。

 

Twitterが流行り始めた時期だ。

 

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Twitterは当時はmixiに比べてアングラで、一部のミーハーしかやってないようなものだった。

 

私はミーハーなので即座にアカウントを作っていた。

mixiTwitter両方やっている人はmixiの自己紹介欄にアカウントを書いていることが多かった。

 

るりもアカウントを作ったようですぐにフォローした。

 

るりのTwitterアカウントを見て、彼女について再び驚いた。

 

るり

夢の国で働いてた/娘0歳/ドナルド好き

 

娘???

結婚していたとそこで初めて知った。その後、すぐにDMしてみた。

 

私:フォローしたよ!娘いるの!?結婚してんの!?

 

るり:あ、ごめんwいるよ。去年結婚した。ちなみに大学も3年で辞めたよ。

 

私:まじか!知らなかったわ(笑)結婚も娘さんもおめでとう!

 

るり:ありがとう。吾郎は卒業?就職決まったの?

 

私:決まったよ〜。るりはもうキャストしてないんだよね。これから復帰したりとかするの?

 

るり:うーん。わかんないけどキャストはしない。

 

私:別の就職?

 

るり:オリエンタルランドの社員になりたいなって。それも企画とかするところの。

 

私:え!?

 

るり:ずっとディズニー好きだし。パークに貢献したいなって。まあ、まずは子育てだけどね。

 

るり:友達いないし、中学で馬鹿にされたの根に持ってるって言われたらそれまでだ(笑)

 

 

好きだったものに貢献したい

 

ずっと好きだった

 

 

この時、私は心の底からるりを尊敬した。大学でワイワイやっているだけの頃に、同い年の友達が人の親になっていたこともそうだが、なにより好きなものを突き詰めてそれに携わろうとしている姿勢に私は胸を打たれた。

 

就職が目の前にあった時期だったからかもしれない。好きなことをやり続けようとしているるりがとてもかっこよかった。

 

Twitterはアングラだったが、もうオタクは一般のものになっている時代だった。Dヲタという言葉も出始めた時代だった。

 

しかし、彼女の好きは中学のあのチャットルームの頃から変わってなかったのだ。自分の好きなものを否定されて、いじめられても。彼女は好きでい続けた。彼女はいじめにも勝ったのだ。

 

それは誰でもできることなんかじゃない。

私だって馬鹿にされて諦めてきた。

 

そして、今は自分以外の人の人生を背負いながらまだ好きなものに向かい続けている。

 

 

どんなことがあろうと好きなものを好きでい続ける彼女はすごい人だったんだ。

 

その後、るりはTwitterのアカウントを消してしまったので連絡は取れず行方はわからない。

 

でも、彼女が夢を叶えてディズニーリゾートを新たに進化させているといいなといつも思っている。