こんにちは。てんすけです。
社会人になってすぐの話。
20代も前半の私は、週7日、1日13時間というバカみたいな時間を仕事に費やし、猛烈に働いていた。
当時は仕事こそが生きがいと感じており、自主的に頑張っていた。
そんな無理な生活が長く続くわけもなく、いつの日からかSNSに愚痴を書きなぐる日々が訪れた。
あれだけ必死に打ち込んでいた仕事はこの世で1番嫌いなものに成り果てていた。
(後々、限界がきてうつ病となり倒れるのは別の話)
そんな時に大学の友人(女性)から突然電話がきた。仮にMさんとしておく。
Mさん「ねえ、SNS見たんだけど、仕事辛いの?」
てんすけ「あ〜。そうね。結構辛い。」
Mさん「なんかすごく幸せそうじゃないじゃん。仕事も嫌いみたいだし。助けてあげたいと思ってるんだけど。話できない?」
Mさんは、大学のクラスの友人で仲間内で旅行に行ったり、飲んだりする間柄だった。かなり親しい友人。
この時の私は、言葉の通り受け取り、本気で心配してくれているMさんの話を聞こうと思った。
てんすけ「心配してくれてありがとう。じゃあ、話を聞かせてもらっていい?いつにする?」
Mさん「今日は?」
てんすけ「今日か〜。うちの最寄駅まで来てくれたらできるけど。」
Mさん「うん!!いいよ!!1時間後くらいに行くね。」
ちなみに私の家は神奈川、Mさんの家は埼玉である。普通だったら即答で「行く!!」という距離ではない。
ただ、この時の私は限界労働の影響か、そんなこと気にも止めずに「俺のこと本気で心配してくれてるんだな〜。」と楽観的にとらえていた。
Mさんとは最寄駅のカフェで会うことになった。
私は5分前くらいにカフェの前で待っていたので、Mさんを迎える形となる。
Mさん「ごめん。5分くらい遅れるね〜。」
このくらいの遅刻連絡はまあしょうがないかと思える間柄だ。そのまま到着を待った。
Mさんが遅刻連絡をくれてから10分後、カフェに現れた。
現れたのはMさんと見知らぬ女性2人。
てんすけ「え?サシじゃないの?」
Mさん「あ!ごめん。言ってなかったっけ。この人は私の先生でKさん。あとこちらは妹だよ〜。」
Kさん「よろしく〜。」
M妹「こんにちは。」
なぜ3人いる???
てか、5分遅刻じゃなかったっけ??
そこはかとなく漂う不信感に目をつむりながら、カフェに入った。
ちなみに、Kさんは私やMさんより2〜3個上くらいで20代半ばくらいの方だった。先生と言われるには若いな〜という感じ。
私はコーヒー、Mさんはカフェラテ、M妹はホットティーを各々注文した。
ここでもおかしな事が一つ。
Mさんが連れてきたKさんは注文しないのだ。M妹は追加でミルフィーユ頼んでた。
店に入って話をするなら注文しろや、と突っ込みたくなる気持ちに蓋をしながら、席についた。
Mさん「Kさん、こちらが仕事が楽しくないてんすけです。」
Kさん「そうなんだ。かわいそう。私はそんな人の話聞く活動してるんだ。だからてんすけくん、あなたの力になりたい。」
てんすけ「はあ。」
初対面とは思えない食いつきだなおい
と、心の中ではつぶやいたがとりあえず話を聞いてみることに。
Kさん「あのね。今やっている仕事を無理して続けなくても、選べば楽して遊んで暮らせる仕事あるんだよ。私は、販売員やってたけどこの仕事に変えてから毎日充実してる。」
毎日充実してるなら、なぜ何も注文しないんですか?
素朴な疑問は湧いたが、アルカイックスマイルのまま話を聞く。後ろでM妹はめっちゃミルフィーユ食べてた。
Kさん「てんすけくんは、ア○ウェイって知ってる??」
てんすけ「あ〜聞いたことありますよ。化粧品の会社ですよね。」
一同「爆笑」
Kさん「違う違う。ネットワークビジネスの会社だよ。」
この頃の私は「闇金ウシジマくん」を愛読書としていたものの、ア○ウェイという会社、ネットワークビジネスについては無知だった。
Kさんはこの後、ネットワークビジネスについての解説を丁寧にしてくれた。大体↓のような説明。
私は解説を聞いて自分なりに理解した。(厳密には違うのだが)
Kさん「どう?てんすけくんはア○ウェイの商品で気になるものはある?」
Kさんはカタログを見せて、私に勧めてきた。完全に目が覚めた私は帰りたい気持ちMAXだったので
てんすけ「ないっすね。」
Kさん「でも、家事はするでしょ?例えば台所洗剤持ってきたから見てみて。」
Kさんは、かばんから見たことのないメーカーの台所用洗剤と某有名メーカーの洗剤を取り出した。さらに、ラー油も。
そして注文していないのに、サービスでもらった空のグラスにラー油をぶちまける。
てんすけ「え!?何やってんですか。店員さんに怒られますよ!」
反射的に出た私の言葉を完全無視して、Kさんは話を続ける。
Kさん「今汚したグラスに、ア○ウェイの洗剤とこっちの市販の洗剤を入れてどうなるか見てね。」
と言うと、Kさんは2つの洗剤をグラスに入れた。するとア○ウェイの洗剤の方が泡立った。Kさんは私の顔を見て「どう?」と得意げだった。
その時の私はなんとも言えない顔をしていた。
ア○ウェイの方は水で希釈してから入れていたからだ。
え?これ小学生の理科の実験だよね??
この人、なんでこんなどや顔してんの??
Kさんは必殺技を放った後のような顔をしてこちらを見ている。そして一口コーヒーを飲む。
私は我慢できずに言った。
てんすけ「で?なんですか?」
Kさん「え?見て分からなかった?」
てんすけ「え?」
Kさん「え?」
話が進まない。
てんすけ「だから、どうしたらいいんですか??」
Kさん「ああ。ア○ウェイの商品気になったでしょ。だから何を買うかなと思って。」
あ、そういうことか。この時Kさんの話の論理がまったく繋がらず分からなかったのでちょっとスッキリした。すると、今まで黙っていたMさんが口を開く。
Mさん「ここで買わなくても、みんなでパーティーするからそこででもいいと思う。てんすけはそういうの好きでしょ!?」
ここでまた合点があった。Mさんはそうやってこいつらに引き込まれたのかと。
Mさんは大学時代は友達も多く、クラスで遊ぶ時はいつも中心にいて、さらにサークルでもかなり充実した生活を送っていたそうだ。しかし、社会人になってからは、大学時代の友人とも就職や結婚などでたまにしか会わなくなり、孤独を感じていたとのこと。私も実際に相談を受けていたので知っていた。
Mさんは私にパーティーの話をしてから、しばらくKさんを通じて出会った仲間たちがどんなに楽しい人たちか、大切かをひたすら語った。BBQや飲み会、ホームパーティーが定期的に開かれて、みんなそれぞれの目標を語り合うのだそうだ。
ここでようやくすべて理解した。
Kさんたち謎のマルチ組織は孤独を感じるMさんをBBQやホームパーティーといった形で誘い込んだ。そこで大切な「仲間」を作らせて依存させた。「仲間」がいるから活動も行う。そうやって、引き込んでいくのが奴等の手法かと。
そして、今回の生贄に私が選ばれたのかと。
もうこの時点で私の腹は決まった。
なんとかして友達であるMさんをKさんたち謎のマルチ組織から引き剥がしてやる。Kさんを論破して目を覚まさせる。
てんすけ「商品の説明ありがとうございます。でも、先ほどの話聞いてて思ったんですが、これって得するのは上層部の一握りの人だけじゃないですか?だって、10人に商品の販売権与えて、その10人が10人ずつ販売権与えるじゃないですか、これ繰り返してたら速攻で神奈川県の人口超えませんかね??そんなの続くわけないしそしたら儲かるわけないじゃないですか??」
Kさん「え?でも、売れる人と売れない人いるし。一概には言えないんじゃない?」
てんすけ「いや、じゃあだったら最初に私に言った事と矛盾しますよね。嫌な仕事しなくても良いって言ったじゃないですか。売れなかったら収入無くて代わりになんてならないですよね。」
Kさん「でも、大抵の人は売れるから。ア○ウェイの商品は化学物質0でオーガニッ……」
てんすけ「人口爆発するじゃないですか!」
そこからは完全に水掛け論。
Kさん→それでもア○ウェイはすばらしい!!
てんすけ→異議あり!!
を5回は繰り返した。なに、この無理ゲー。逆転裁判がバグった??
Kさんに何か言っても無駄だと判断した私は、直接Mさんの説得にあたる。
てんすけ「Mさん、今我々が話してたことわかった?Kさんたちが言ってることは破綻しているんだよ。あと、こういうのマルチ商法って言ってネズミ講に近い犯罪スレスレのや……」
Mさん「ねえ!!!!!なんでそんなKさんのこと酷く言うの!!!!!!」
Mさん、完全に向こう側だった。
Mさん「Kさんはね!私が1人で寂しくて落ち込んでいるときにずっと声かけてくれた。友達も紹介してくれた。仲間もできた。そんな素敵な人なの!!てんすけみたいにぼんやり生きてる人には分からないよ!」
もう、取り込まれてしまった。
友達だった頃のMさんはいないとそこで理解した。
Mさん「ア○ウェイは犯罪じゃない!私たちの仲間は自分を高め合おうってがんばってる。なのに、てんすけは文句付けてばかりで。」
てんすけ「わかった。ごめんごめん。」
もう無理だと判断した私は話を切り上げることにした。
正直、友達がこんな風にされてしまったことへの怒りは消えてしまった。代わりに焦燥感が残った。
Kさん「Mちゃん、ありがとうね。てんすけくん!今度は本社行こう!きっとわかってくれるから。パーティーあるからさ。」
こいつまだ諦めてなかったのか
てんすけ「いや、いいです。パーティーとか興味無いし、商品も買う気ないので。」
Kさんは不服そうな顔したが、Mさんが退店を促したのでしぶしぶ帰り支度を始めた。M妹はミルフィーユを完食してホットティーを楽しんでいた。
Mさんは語気は収まっていたが、私をにらむような視線で言った。
Mさん「てんすけ、今日はありがとう。でも、もう関わらないで。こんなひどい人だと思わなかった。私は自分の仲間を悪く言う人は許さない。」
てんすけ「はい。ちょっと言い過ぎたよ。」
そうやり取りすると、全員で退店した。
ラー油の入ったコップちゃんと洗えよ、は首くらいまで出てたが言わなかった。あと、Kさんは結局1つも注文しなかった。
カフェの前で3人を見送った。この後、Kさんの家で食事するのだそうだ。
Mさんは、こういう話でよくある「しばらく会ってなかった友達」ではない。月に1回以上、大学の友達同士で飲み会する時には必ずいる人だった。また、彼女の悩みを聞きながら2時間3時間と語り合ったり、反対に悩みを聞いてもらったりもした仲だ。
大学時代、共に学び、共に遊んで、くだらない事も将来の事も言い合った友達を簡単に捨てるんだ。ホームパーティーやBBQみたいな楽しそうなイベントで人を呼び寄せ、無責任な夢を語る奴らがそんなに大事なんだ。
そんな諦めに似た感情が湧いてきた。
私はそんな大切な友達と、こんな形で仲が切れるとは思っていなかった。もう二度と会う事はないのだろうか。
そう思いながら、帰路につく。
しばらく歩くと、ふと気がついた。
俺、コーヒー飲まなかったな。
あれ?勝手に飲まれた????
追記
実はMさん、この2〜3年後に結婚したそうです。
というのも、一緒によく遊んでいた大学のクラスの友人が式に呼ばれたそうです。
結婚式も、なんかよくわからない場所で、年齢層も様々な知らない人が来て名刺の交換会や商品紹介が始まるなど、今まで体験したこともなかったようなものだったそう。
Mさん、私への勧誘の後は(少なくとも私の周りの)大学の友人に声をかけることはなかったようで、関係は良好だったとのこと。
つまり、私が1番どうでもいいやつor勧誘しやすそうなやつと思われとったんかい!!!